野尻湖発掘とナウマンゾウ part2

野尻湖人とは? 4万年前の日本に人間はいたのか?日本史を左右する謎に迫る..!

Q. 野尻湖人は間違いなくいたのでしょうか?

A. そこが最大の問題です。
間違いなくいたと考える人もいれば、いや、まだ大陸から渡ってきていないんじゃないかと考える人達もいる。

仮にまだ人間がいなかったとしたら、ここで見つかっている石器、これらは何なんだと。
これが石器じゃなきゃ何なんだと。

ただ、人によっては、この部分は石器ではないんではないかという人もいて、まだ統一見解はない。
骨器にしても、それは違うんじゃないかという人もいます。

ただ、海外の人は殆どそれを骨器として認めています…海外では同じような物が出てくるので。

Q. 野尻湖以外に日本でナウマンゾウの狩猟をしていたような場所は見つかっているのですか?

A. いえ、ここだけです。
唯一、岩手県の花泉というところは骨器のようなものも出ていますが、野尻湖のように大量には出ていない。

Q. ここ最近の発掘で面白いものは出てきましたか?

A. オオツノジカの大腿骨のかけらが3つ程、先日の発掘で出てきたんですけど、34年前と10年前に近くで見つかった欠片と5つがピッタリ一致したんです。10mくらい離れた場所で見つかった欠片が一致した。どうも1点に力が加わって割れた事がわかってきたんですけど、なぜ10mも離れた場所にあったのか。


そうすると、人が石器で割ったのではないかという選択肢も出てくるわけです。しかも、同じ時代の地層から、ここで狩猟をしていたのではないかという場所から出てきたわけです。
これは何かモノを言いたげなのではないかと…決定打はまだないんですけど。
人骨の発見は決定打になるけれど、今、色々な人達が考えているのは、割れた化石に確実に石器で割ったような痕跡が見つかる事。

外国ではたくさん見つかっているんです。
当時の人類が狩猟をした後だとかの論文も外国にはたくさんある。
ここでもそういった研究はしているけれども、確実にこの傷は石器でつけたのかというのはまだわからない。例えば石器が骨に刺さっているとか、そういうものが出てくると一番わかりやすいんですけど…人骨よりもはるかに可能性が高いんです。

もう1つは足跡。
ゾウの足跡は出て来ているので、その近くから人間の足跡が出て来てもおかしくない。ただそれを識別するのは難しいですが。

次回の発掘では、ふるいをかけて、細かい骨まで全部採ろうと考えています。
人間の歯を見つけようと思って(笑)。

Q. 髪の毛などは残らない?

A. 髪の毛は難しいですね。
ただ、今の環境DNAの手法でやれば、土の中にモノは残っていないけれど、DNAは残っているかもしれないですからね。そういった手法をこれから開発すれば、土の中の有機物から人間の痕跡がでてくるかもしれない。

おそらく将来的には可能になると思います。
これからどんどん技術が進歩していくので、若い人たちが果敢に挑戦してくれて、人間に近付いていけば面白いかな。

Q. ちなみに全然違う質問ですが、マンモスとナウマンゾウの違いはどんなところですか?

A. 住んでいた時代、場所、環境が違います。マンモスは北海道より北、ナウマンゾウは南。
時代も、ナウマンゾウは3万年前くらいに絶滅していますが、マンモスは3000年前まで生きていた。
それから、牙の大きさだとか形も全然違う。マンモスは一言で言うと、寒冷地仕様で、ナウマンゾウはそこまでではない。
ナウマンゾウは日本列島に特化したゾウで、日本で進化して、日本で絶滅したゾウなので、日本列島の特徴を解明するのに凄く面白いんです。

何故この島国で、進化してああいう形になったのか、何か意味があるんです。
もしヨーロッパにいたら、ああはなっていないはず。
それからナウマンゾウは森林性のゾウ、本州の環境はナウマンゾウ的なんです。

ナウマンゾウ博物館へ行ってみよう!

1984年、野尻湖で発掘された化石や遺物を収蔵・展示し、さらには野尻湖の総合研究の役割を果たすべく、信濃町立野尻湖博物館が開館しました。
また
1996年には野尻湖ナウマンゾウ博物館と改名し現在にいたります。
ナウマンゾウ博物館では、第1回の発掘より見つかったおよそ8万点の出土品をすべて収蔵し、そのうち重要な化石や遺物、約1000点を展示しています。

常設展示室には、実物大のナウマンゾウの復元像や、出土した牙、骨、歯などの化石の他、人々が暮らしていた事を証明する旧石器人類の石器や骨器も展示してあります。

さらに、2018年には博物館をリニューアルし、1階に新しく氷河時代を体験できるコーナーやお土産コーナー、カフェ(休憩スペース)が設置されました。

Q. ナウマンゾウ博物館の見どころを教えてください。

A. 見どころは2つあります。

一つ目は、氷河時代、4万年前の日本にしかいなかったナウマンゾウがどのようなゾウであり、どのような環境で生きていたかという事を、実際にここで発見されたデータから読み解こうとしているところ。そして、常に発掘による新しいデータが研究され、展示にフィードバックされている。そして、実はあなたも発掘に参加出来ますよと主張できる博物館、そこが一つの大きなポイントです。

2つ目は発掘の参加者が作り上げている博物館だという事。今まで2万人以上の人達が発掘に参加して、作り上げている博物館。この2つは他にはない大きな特徴です。
2年に一度発掘をしていますが、そのたびに何かしら新しい発見があるんです。

野尻湖から世界へ発信?野尻湖の秘める可能性とは..!?

Q. これからの発掘調査にどんな事を期待しますか?

A. 先程も話した新しい手法。
もちろん今までのベースとなるやり方、どの地層から出てきたのか確実にわかる方法というのは絶対重要なんだけれど、まだ年代特定の制度はせいぜい数百年年単位。
それを1年の精度でやりたいんです。おそらく可能になると思います。

あと、人間の痕跡を見つける事の他にもう1つ。
今、地球環境っていうのは変動の時期に入っていますが、そういう変動の時期は昔もあった。野尻湖の地層にはそのデータが残っている。地球環境の変化っていうのは野尻湖の地層を見ればわかるんですよ…長野県の山奥の湖の底にそういうのが全部残っている。

まだまだ私たちはそういったものを認識出来ていないんですけど、花粉の化石だとかを見ると、過去にも寒くなったり暖かくなったりを繰り返している。そこに、火山噴火や地震や大雨や台風などがかなり頻繁にあった時代と、平穏な時代とがあるわけです。まさに今の時代….では何故変化し始めたのか?

温暖化だとか人間の影響だとか、もちろん人間の影響は大きいんだけれど、地球環境っていうのはそれに関係なく変化しているんですね。そういう変化のファクターが人間以外にも何かあるんじゃないか。そういう事を解明していくと、我々の将来にプラスになるようなデータが野尻湖から出てくるかもしれない。

例えば雪の問題。
豪雪地帯っていうのは、一体いつから始まったのか…雪が降らなくなったら信濃町は一体どうなるのか?そういう事は過去にも経験済みなんです、ここは。
過去にはスキー場はないけれども、雪がなかったらどういう環境になっていくのかというのがわかるわけです。
こんなに早くそういう事が訪れるなんて思ってなかったけれど。

そういう事がわかると面白い。
将来的にもっと精度を高めて、災害とか地球環境の変化をどうとらえればいいのか、ここ野尻湖から情報発信が出来るかもしれない。

Q. 何年くらいでそういったことは可能になるのでしょうか

A. おそらく10年くらい。
技術革新のスピードは凄いから、おそらく10年くらいで今とは全然違った手法が出てくるんじゃないかと思います。堆積物や無機物から、時代の変化を解明するような事が出来てくるんじゃないかな。

体験を通して、子供たちに科学の面白さや論理的な考え方っていうものを伝えていく。

Q. 館長はあと何年くらい続けるんですか?

A.まぁ面白がっているうちは。
ただ人骨がでてきたら、新しい博物館の時代が始まっちゃうので(やめられなくなる)
科学って言うのは、ターゲットがあって、色々な人達がみんなで考えながら、それを追求していくプロセスが面白いんです。
そのプロセスにおける論理性というのが大切で、ここでは子供たちと一緒にそれが出来るんです。
体験を通して、子供たちに科学の面白さや論理的な考え方っていうものを伝えていく。
自分で掘るっていう行為は、自分の手に感覚として養われるんですね。絶対バーチャルや人工知能ではできない。

特に小さな子供の頃から自然に親しんで、そういった考え方が身について、頭だけでなく身体で覚える、感じる。そういった経験で感性が磨かれる。
バーチャル、インターネットしかやっていないと、そういう感性がどんどん衰えるんですね。

それは人間の進化を考える上ではとても重要な問題だと思うので、子供たちと発掘をやるっていう事は色々な意味でプラスになるんではないかと思います。新しい事を生み出すのに、想像力を豊かにして感性を磨くって言う事が人間として凄く重要。

スマホで育った子供たち、自然に触れないで、自然を知らない状態、そうすると人間として感性を磨かないうちに大人になっちゃうから、きっと危険な状態になりますよ。
そこに対しては警鐘をならしたい。
なるべく小さいうちは、こういった自然の中で周りの景色だとかを感じながら生活していった方がいいな。その大切さを信濃町はもっとどんどん出していけたら。
発掘なんてエキサイティングな経験、どんな形であれきっとプラスになると思うので。

何も見つからなくてもいい。
ここで発掘したという事が身体にしみ込んでいれば、絶対それはいつか役に立ちますよ。

いかがでしたでしょうか?ぜひ信濃町にいらしたら、野尻湖ナウマンゾウ博物館へお立ち寄りいただき、野尻湖発掘の歴史に触れてみてください。

野尻湖ナウマンゾウ博物館ホームページ